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20話 生まれ変わったオリビア

last update Dernière mise à jour: 2025-01-05 13:16:27

—―翌朝

いつものように6時半にセットした目覚まし時計でオリビアは目が覚めた。

「う~ん、良く寝たわ」

伸びをして起き上がると、部屋の中がいつもより薄暗いことに気付く。

「あら? もしかして……」

ベッドから降りて、カーテンを開けてみると外は生憎の雨だった。

「雨……困ったわ。自転車で行けないわ」

いつものオリビアなら、遠慮して馬車を出すのを躊躇っていた。けれど、憧れの女性、アデリーナを思い出す。

「そうよ、私だって立派なフォード家の人間。遠慮する必要は無いわ。堂々と馬車を出して貰えばいいのよ」

オリビエは完全に割り切ると、朝の支度を始めた。

7時になり、専属メイドのトレーシーが部屋に現れた。

「おはようございます、オリビア様。あ……また、お一人で朝のお支度をなさったのですか?」

「ええ、自分の支度位、1人で出来るわよ。あなたはまず自分の仕事を優先してちょうだい」

義母や異母妹には専属メイドが複数人いたが、オリビアにはトレーシー1人のみだった。当然、トレーシーは忙しい。なので出来るだけ負担をかけないようにオリビアは出来るものは自分でやってきたのである。

「ありがとうございます。お仕えする方がオリビア様のような方で、本当に良かったです」

大袈裟にお礼を述べるトレーシーにオリビアは笑みを浮かべる。

「大げさね、トレーシーは」

「あ、そう言えば仕事仲間に聞いたのですが、昨夜は深夜になっても旦那様の書斎から明かりが洩れていたそうです。珍しいこともあるものだと仲間内で話題になっていましたよ」

「まぁ、そうなの? いつもお父様は22時過ぎには就寝しているのに……何かあったのかしら? でも、どうでもいいことだけどね」

割り切ることに決めたオリビアは潔かった。

「何だか、オリビア様。たった1日で変わりましたね。まるで魔法にかかったみたいです」

「ううん。魔法にかかったのではなくて、多分魔法が解けたのかもしれないわ」

勿論、魔法を解いてくれたのは……アデリーナであることは言うまでも無い。

その時。

—―ボーンボーンボーン

7時半を告げる時計の音が鳴り響いた。

「あ、朝食の時間だわ。行ってくるわね」

「はい、行ってらっしゃいませ」

オリビアはトレーシーに見送られ、ダイニングルームへ向かった。

長い廊下を歩きながら、窓の外にめをやると外は本降りの雨になっている。

「酷く降って来たわね…
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